スマホも地図アプリも無くても冒険は出来た❕中国から中央アジア ~シルクロード横断ディープ旅~ キルギスタン編⑤
<カラコル~アルティン・アラシャン>~突飛な行動でついに馬をゲットした俺達、人生最高の美しい山の景色に出会い温泉で癒す最高の一日~
《ベジタリアンの苦悩》
翌朝は早めに起きてすぐ宿を出た。
前回カザフスタンでの教訓も踏まえてトレッキングに持って行く荷物を最小限に抑えるため、図々しくも今回のトレッキングにはいらない荷物を無料で泊めてくれたホテルに置かせてもらい、担いで行く荷物は最小限にしたのですごく軽くなった。
朝は昨日もランチに寄った定食屋に行ったのだが、俺はラグメン(中央アジアのトマトコンソメ風味の手打ちうどん)を例の如く美味しく頂いたので良かったが、マタンのベジタリアン野郎は勿論肉の入ってないものを選ばなくてはならないので、ここでも大苦戦。
奴は毎回、
『自分はベジタリアンで、肉の入っていない料理をお願いします』、
という趣旨が店側にすんなり伝わらないので、どの食堂でも最終的に俺も一緒になってジェスチャーゲームのように鳥の動きや鳴きまねしてそれは✖、次に牛のマネをしてこれも✖、そして最後は羊のマネをして✖、みたいなことをいちいちやって肉が食えない事をまず伝えなければならない。
それでも中々通じなかったり、通じたと思ったら俺までベジタリアンだと思われてまた最初から意志疎通のやり直し、といったようにたかが食事のオーダーをするのに汗かきまくって30分が立ってるなんてこともあった。
本当にこの国に来るのに何でお前はよりによってベジタリアンなんだ!と心の中でこのイスラエル人を呪っているのだが、一緒に旅すると決めた以上しょうがない。
そしてその後中央市場に行き果物・水などを買って乗合いバスに乗りトレッキングを始める山の麓まで行ったのだが、これがまたすごく車内が混んでいるというか息を吸うのも困難なくらいスペースがない。
この車内でもまた親切に遭遇。
膝の上に抱えていた俺のバックパックを、横にして自分の膝の上にも半分負担してくれた隣の席のおじさんには感謝。そして前の席のおばちゃんはめずらしくムスリムではなく、クリスチャンらしく何故かしきりに聖書を自慢げに見せてくる。
そんな過酷ながらもほんわかしたバスの時間は過ぎ、アクスーという分岐点で降りて、しばらくいくと道が2手に分かれていた。
そう、ここからトレッキングを始める予定なのだが右は山を登って行く方、左は小さな集落がある方向だ。
《突撃お宅訪問!村を攻め、念願の馬をゲット!》
当然すぐトレッキングを始める気満々で俺は右側を歩き始めたら、マタンの野郎がここから馬に乗って行きたい、などと言い出したので、俺はいい加減そのベジタリアンヒゲ野郎の口を黙らせようと決心し、最後の集落があるここでなんとしても馬を手に入れる事にした。
そして集落の方の左方面に方向転換して村に向かって歩いていると、反対側の方から地元の3人組の男達が歩いてきた。チャンスと思い俺はまた身振りとつたないロシア語単語を並べて誰かこの辺で馬を持ってる人はいないかと尋ねてみた。
ようやくこちらの意志が伝わると、彼らからノルランという村人が馬を持っているとの情報をゲット。この村を過ぎたら後はずっと民家などなさそうなので、聞くならこの村が最後のチャンスだと思い、俺達はすぐにその希望の星ノルランの家を探し出した。
何件かのお宅に突撃して最終的に行き着いた、おそらくこれであろうという家の前で取りあえず声を張り上げ”ノルラン、ノルラン!“と呼んでみる。しばらくすると恐る恐るといった感じで家の中から一人の男が出てきた。
ノルラン?と聞くとゆっくりと頷く。"ビンゴ!”
そして俺達がいきなりジェスチャーとインチキロシア語で、馬に乗りたいとギャアギャア喚きたてるのでノルランは最初かなり面喰っていた。
そりゃあそうだろう、
ものすごいド田舎の10件程しか家がない小さな村の一軒の民家に、いきなり言葉が通じない外国人、しかも人種バラバラの2人組、という組み合わせがやって来て自分の名前を呼び馬に乗せろと言っている。
それはビックリな出来事だろう。
非常識にも程があるが俺はとにかくこのキルギスに来て以来、金が無いくせに馬に乗りたい乗りたいとやかましいこの”ユダヤヒゲ採食野郎”をいい加減黙らせたかったのだ。
ノルランも俺達の必死のコミュニケーションを通じて徐々に慣れて来て、何とか何がしたいかを理解したようだ。そして値段の交渉をして、2人で1000COM(約1000円)で山の上の温泉があるところまで行ってもらえることになった。
マタンの後ろにノルランが座り、特にホースライディングなどしたくなかった俺が何故か一人乗馬。
D15 地球の歩き方 中央アジア サマルカンドとシルクロードの国々 2019~2020 (ウズベキスタン カザフスタン キルギス トルクメニスタン タジキスタン)
やったことがないので、最初は馬が全く言う事を聞かず行きたい方向に行けない。ただ徐々にロープを引っ張ったりムチの使い方を覚えスムーズに進むようになった。トレッキングは基本上流から流れて来ている川の流れに逆らって登って行く感じで、周りの木々もカザフスタンに似ており、高い針葉樹が綺麗だ。
本当に緑豊かで川も綺麗で素晴らしいのだが、天気がコロコロと変わる。ちょっと前に雨や氷が降ったと思ったら急に晴れて暑くなる。ただ俺はこのコースをやはり自分の足で歩きたかった。
確かに馬の背から見る景色はいつもより高く、歩く視点とは少し違う。しかし俺は根本的に象などもそうだが、動物の上に乗るという行為が好きではない。別に動物愛護者でもなんでもないのだが、歩ける足を持っているのに動物などに乗っているのは何か偉そうで罪悪感を感じると同時に、折角歩けるのに勿体ないという感覚がある。
《秘境の温泉・桃源郷へ!》
山道をどんどん登って行くと途中道は狭く傾斜も急になり、周りの景色は壮大で崖下から川が見えまた遠くの前方には綺麗な雪山が望め、何とも言えない幻想的でダイナミックな眺めは圧巻だった。
俺は何でこれまでの過去の旅で、普段オーストラリアで海に囲まれて生活してるにも関わらず、海外行ってまで海に行っていたんだろう。。? そしてこんな山の美しい景色を見逃してたんだろうと心から悔い、今目の前にある新鮮な山の景色に見惚れていた。
ここでは高度があがって行くにしたがって寒くなって行くのをそれを肌で実感出来る。これも海では出来ない経験だ。
そしていい雰囲気の木の下で休憩する事にした。町のガソリンスタンドで燃料を満タンにしてきたマタンのハイテクコンロでささっとチャイをつくり、パン、チーズと缶詰、果物の簡単なランチにした。
ただ見晴しいいのでこんな質素なランチでも旨く感じた。ノルランも旨そうにお茶を飲んでくれた。彼は物静かだが(当然言葉も通じない事もあるだろうが)信頼出来そうなシャイボーイでいい奴だ。
そのまま上に上がり続けると、登り切った先の奥が小さな盆地のようになっており、山に囲まれた緑の草原地帯に馬や牛が放牧されていて、3,4件の家らしき建物があった。
そしてさらに遥かその奥には高い山が連なっていて、一番奥正面にはさっき見えた雪山が堂々と神々しくそびえたっていた。いやまさしく現実離れした綺麗な空間に思わずポカンとしてしまい、まさに思い描いた≪桃源郷≫の世界が広がっていた。
その盆地にある村?はまさにハイジの世界のようなのどかな山の風景で、映画か何かの中にいるようだった。ポツリポツリとある、木で出来た山小屋やユルタが味をだしている。そしてその盆地に降りて行き、ノルランの知っている人がやっている山小屋で今晩は泊まる事にした。
ノルランに金を払い彼と写真を撮ってお別れをした。
彼は器用に一頭の馬に乗りながらもう一頭を引っ張って行き、シャイでピュアな笑顔を残して去って行った。いやー、素朴でいい奴だったな。そしてこのホースライディングもいい経験にはなったかな、もう2度とやらないけど。。
その村落はアルティン・アラシャンという村で、ここを流れてる川は温泉になっている。うちらが泊まった山小屋は熟年夫婦が切り盛りしているが、温泉と部屋&朝食で一人400COM(約400円)にしてもらった。
実質奥さんの方が色々やっており、旦那は何やらこの辺の山のレンジャーらしき仕事をしてるらしい。ライフルを肩に掛けており、この辺には熊やジャッカル、雪ヒョウやトラもいる為もしもに備えて武装しているらしい。しかしこんなのどかなで、人も殆どいない山でライフル程不釣り合いな物はない。。
マタンも温泉に行きたいというので寝床やキッチンがある本館から200m歩いた川沿いに立っている、温泉の小さなログハウス風の小屋まで歩いて行く。景色はいいのだが、道はぬかるんでおりまた途中牛や馬のフンだらけなので踏まずに歩くことは不可能だ。サンダルに履き替えて来たことを後悔する。
温泉は45度くらいらしく、入るとかなり熱い。ただ俺は日本男児なのですぐに熱さにも慣れゆっくりと湯に浸かり最高の気分だ。しかしこのイスラエル人には熱過ぎるらしく、腰まで立った状態で浸かり桶ですくったお湯を肩から掛けてやがる。
それでもやせ我慢なのか温泉最高だ!などと抜かしてご機嫌だ。
熱くなると小屋を出てすぐ脇の川の水で体を冷やしたりして、それを繰り返し結局2時間くらい温泉を満喫した。いや~、こんな桃源郷でまさかの貸し切り温泉を満喫出来るなんて夢にも思わなかったな。帰りはまたフンまみれになるけど。。
そして晩飯を作ろうとラーメンのお湯を沸かしたが、ここは海抜3000m強の高地なので沸点が平地より低いのだ。
よってマーケットのボロイ店で買った古い麺は更にぬるいお湯で微妙な硬さに茹でられ、さらにこのベジタリアン野郎は袋に入った調味料もチキンエキスとかが入っている為それを食べられないので、代わりに俺がカザフスタンから持ってきてる調味料、塩・パプリカ・ゴマ・クミンなどで味付けした。
すると麺はボソボソでスープの味は今まで味わったことのない不快な風味で最悪の晩飯となった。。。
けれどこれもやせ我慢なのかマタンの野郎は旨そうに食べている。飯をシェアにすると俺は圧倒的に不利である。
だがしかし薄暗くなっていく周りの景色は圧巻で、夕暮れに染まる山々は色を変えていき山の向こうに沈んでいく夕日は幻想的過ぎる。
こんな素晴らしい景色の中で食べても不味く感じるこのラーメンは、街中の雑踏で食べたら気をおかしくするくらいまずいんだろう。飯が終わってしばらくすると完全に暗くなり寒くなって来たのでもう一度温泉に行った。やはり山の上は日が暮れると急に温度が下がる。
温泉から寝床への帰りの歩きはもう真っ暗で、動物のフンを踏みまくってたのだろう。ぬかるんでいるので、温泉に入って綺麗にした足の上にまで着いたに違いない。。
夜は明りが無いので外は完全に闇の世界で、それがまたいい。周りに何もないので数百メートルも離れた小屋からの人の話声も、はっきりと聞こえてしまうくらいの静寂の世界だ。
そして夜10:00前には床に着いたがすごく寒くてなかなか眠れず、夜中に外に用を足しに行った時ふと空を見上げたらすごい星空だった。
細かい星や星雲がまさに隙間なく一面に広がり、何個かはっきりと人工衛星が動いて行くのが見えた。
これは人生でベストな星空の一つだった。
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